「第11回情報教育フォーラム」発表予稿原稿

小学生を対象とした情報モラル教育の教材と方法の提案

A Proposal of Information Ethics Education for Schoolchildren

村田育也

Ikuya MURATA

北海道教育大学教育学部旭川校

Hokkaido University of Education, Asahikawa Campus

1.はじめに

 情報教育学研究会(以下,IECと呼ぶ)情報倫理教育研究グループは,高校・大学の情報倫理教材として,また社会人の教養書として,インターネットの光と影の両面についてまとめた(1).個人情報,知的所有権,生活,ビジネス,教育,コミュニケーション,セキュリティ,犯罪の8項目について整理し,解説をしている.西野他(2)は,これら8項目を基にして,小中学校にまで対象を広げて,初等・中等教育の情報モラル教育カリキュラムの開発を検討している.また,IEC情報倫理教育研究グループは,これらを元にして「インターネットの光と影」に準拠した演習問題集(3)を作成している.
 村田(4)は,情報モラル教育の実践例を調べ,それらで使われている教材のタイプを御法度型,
FAQ(Frequently Asked Question)型,童話型の3種類に分類した.本研究では,IEC情報倫理教育研究グループが作成した演習問題集を元にして,小学生を対象とした3種類の情報モラル教材を試作し,それを用いた情報モラル教育の授業方法について検討する.

2.情報モラル教材の種類

 情報モラル教材には,表1に示すように,御法度型,FAQ型,童話型の3つのタイプがある(4)
表1 情報モラル教材の種類
教材の種類 御法度型 FAQ型 童話型
説明 ルール,マナーを集めた「べからず集」 代表的な事例について,このときはこうしなさいと教えるもの 情報モラルを学べるように構成したお話
特徴 内容の具体性
事例の数
動機付け
抽象的   <−−−−−−−−−−−−−−>   具体的
多い                       少ない
指導者が与える                自主的に学習可能
 御法度型教材は,事例を多くあげることができるが,内容が抽象的になりやすい.また,学習の動機付けを指導者がおこなう必要がある.電子ネットワーク協議会「インターネットを利用する子供のためのルールとマナー集」(5)および藤川(6)がそれにあたる.
 
FAQ型教材は,代表的な事例について,このときはこうしなさいと教えるものである.御法度型と童話型の中間的な特徴をもつ.茨城県教育研修センター「情報モラルおよびQ&A」(7)のようなFAQを教材に利用した場合,これがそれにあたる.
 童話型教材は,情報モラルを学べるように構成したお話である.自発的な学習の教材や議論の題材として利用することができる.ディズニー・オンライン・ジャパン「サイバーネチケット・コミック」(8)は,童話型の
Web教材である.

3.情報モラル教材の開発

3.1. 開発の方法

 IEC情報倫理教育研究グループが作成した演習問題集は,高校生以上を対象としたものである.これを元にして,小学生を対象として扱う情報モラル教材を以下のように試作した.まず抽象的な御法度型教材を網羅的に作成した.次により具体的な内容をもつFAQ型教材,童話型教材の順に作成した.このとき,「インターネットの光と影」の章立てより,操作的な項目分けの方が小学生に理解しやすいと考え,以下の9項目に分類し直した.

3.2. 教材の試作

 まず,演習問題集(高校生以上対象)から小学生に難しい内容を削除し,残ったものを平易な表現に書き改めた.逆に,高校生には教える必要のないことでも,小学生には言わなければならないことがある.これらを,書籍「インターネットの光と影」から新たに抽出し,御法度型教材を作成した.その一例を図1に示す.
 次に,御法度型の項目の中から,小学生が遭遇しやすいもの,重要なものを選び出し,それらの内容を具体化して
FAQ型教材を作成した.その一例を図2に示す.
 さらに,具体的な議論が必要な内容を選び出し,童話型教材を作成した.童話型教材は以下の2つのタイプを考えた.
 1つは,トラブルに巻き込まれた小学生のエピソードが書かれているものである.他人を思いやることの大切さと,正しい判断をするための知識を身に付けさせることを狙っている.図3に示したものはその一例である.チェーンメールをもらったときの気持ちを理解し,送るときの心の葛藤に共感を持たせた後で,チェーンメールの見分け方を学習するものである.
 もう1つは,一人または数人でパソコンを操作しながら学ぶものである.その一例として,童話型
Web教材「ホームページを作るとき」のページ構成を図4に示した.学習者は3つの村を訪問し,そこで出会う村人とのやり取りを通じて,情報モラルを学べるようになっている.タブー村では著作権について,デンジャラス村では個人情報の取り扱いについて,ピクチャー・レイアウト村では画像やページのレイアウトについて学ぶ.

4.実践方法の検討

 これまで紹介した情報モラル教材は,ようやく試作した段階である.ここでは,教材が完成したとき,これらを用いてどのような教育方法を実践できるかについて検討する.
 2つのタイプの童話型教材には,異なる実践方法が考えられる.前者には,教師が児童らを指導しながら教材を読ませ,クラスで討論させながらチェーンメールの見分け方を見つけ出す授業展開が適している.後者は,個人学習またはグループ学習に適している.
 3種類の教材を統合的に利用する方法として,次の2つが考えられる.1つは,御法度型を基本教材とし,それらの具体的な説明として
FAQ型と童話型を用いる方法である.もう1つは,童話型を基本教材として,時間的に扱えない内容をFAQ型や御法度型で補う方法である.御法度型教材を最後にまとめとして利用したり,御法度型教材から正誤問題(試作済み)を作って学習評価に用いたりすることもできる.

5.おわりに

 IEC情報倫理教育研究グループによる著書「インターネットの光と影」およびそれに準拠した演習問題集を元にして,小学生を対象とした3種類の情報モラル教材(御法度型,FAQ型,童話型)を試作し,それらを用いた授業方法を検討した.今後早急にすべての項目において教材を完成させ,これらを用いた授業実践をおこなって,これらの教材と授業実践方法の評価をおこないたい.
 なお,以下の
URLに示すページで,順次小学生のための情報モラル教材を公開する予定である.授業に利用していただき,より良い教材とするためにご意見をいただければ幸いである.
http://www.et.asa.hokkyodai.ac.jp/ie/

参考文献

(1)情報教育学研究会情報倫理教育研究グループ (2000):インターネットの光と影−被害者・加害者にならないための情報倫理入門−,北大路書房.

(2)西野和典他(2000):初等・中等教育における情報倫理教育カリキュラムの開発−その学習目標と学習内容について−,教育工学関連学協会連合第6回全国大会 講演論文集第二分冊 pp.273-274.

(3)情報教育学研究会情報倫理教育研究グループ (2001):練習問題 インターネットの光と影−被害者・加害者にならないための情報倫理入門−

(4)村田育也(2000):小中学校における情報モラル教育について,第10回記念情報教育フォーラム予稿集 pp.1-4.

(5)電子ネットワーク協議会:インターネットを利用する子供のためのルールとマナー集 http://www.enc.or.jp/enc/code/rule4child/

(6)藤川博樹(2000):小学校で教えるマナー インターネット”絶対してはいけない!!”30の法則,汐文社.

(7)茨城県教育研修センター 教育情報「情報モラルおよびQ&A」 http://www.edu.pref.ibaraki.jp/center/index.htm

(8)ディズニー・オンライン・ジャパン: サイバーネチケット・コミック http://www.disney.co.jp/cybernetiquette/index.html



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